会長の言葉は小さい声だったにも関わらず、シンとした生徒会室に響いた。
「し、失踪って…。」
わなわなと口を振るわせつつも声を発したのはカレンだった。
会長の手を握り締めている彼女からは会長の表情が見えるのだろう。
彼女が嘘をついているのではないとさっと顔を青くした。
「じゃあ今の電話は自衛隊から…?」
「ええ…赤紙徴収が来たから失踪したに違いないって…国家反逆罪で逮捕するから近辺に現れたら通報しろって言われたわ…。」
「「「!!!」」」
「こ、国家反逆罪って…そ、そんな…」
「ミレイちゃん…見つけたら通報しちゃうの…?」
「ニーナ!私がそんなことをするわけ無いじゃない!!大切な生徒会役員よ…。」
ミレイは皆の顔をゆっくりと見渡した。
「いい?シャーリーは私たちの仲間、家族も同然。もし見つけたらどうするか――分かってるわね?」
真剣な表情で四人はうなづいた。
暗い雰囲気のまま解散となり、重い空気をまとってルルーシュはクラブハウスへと帰った。
咲世子さんが面倒を見てくれているのでそこまで心配ではなかったが、風邪を引いている双子の様子をすぐ見に行った。
どうやら熱は下がったらしくスゥスゥと寝息を立てて寝ている二人の髪の毛を優しくなでた後、夕食を軽くとり部屋に下がった。
パソコンを立ち上げゼロのことを調べる。
ヒット件数は半端なものではない。
画像を呼び出せば仮面をかぶった奇抜な格好をした男が写っている。
(……なかなかハイレベルなデザインだ。俺好み…。)
『ゼロ:年齢・国籍不明
皇歴2017年 黒の騎士団を率い、当時ブリタニアに支配されエリア11と呼称されていた日本の総督、ブリタニアの第三皇子クロヴィス殿下の殺害容疑で逮捕された枢木スザク(当時名誉ブリタニア人にしてブリタニア軍准尉)の開放を機に現れた日本開放運動の先駆者。
様々な行動は彼の知能の高さとカリスマ性、そして平和を求める強い心を感じさせたが、一番彼を印象付ける事件は悪帝といわれた第99代ブリタニア皇帝を滅ぼし世界に平和をもたらした支配戦争からの開放だろう。
その後はブリタニアや日本だけではなく、世界中を駆け巡り支配や差別、貧困の無い平和な世界を作るために働きかけた。』
(こうしてみるとすさまじい経歴が並んでいる。
彼が生きた世界は恐怖と暴力に支配された恐ろしい世界だったのだろう。
そんな中に現れたゼロはどんなに心強い存在だったか。
これでは正義の味方と書かれてもおかしくは無いような気がする…。)
カチカチとマウスを使ってページをスクロールする。
彼に対する記述は膨大な量があり、速読に長けたルルーシュでもうんざりとするほどだ。
『――亡くなった悪帝を晒そうとした怒れる人々の行動を制止し、『悪は私が滅ぼした!人々よ、過去を振り返るのではなく明日に向かって進みだせ!彼の遺体は私が責任を持って葬ろう。』と悪帝の遺体を抱き去っていったことに対して非難の声が沢山出たが、その行動こそが平和への一歩なのだという意見も多くゼロに従う人は多かった。』
ふんっとルルーシュは鼻を鳴らした。
ゼロは愚かだ。
せっかく悪を滅ぼしたならその死体を市民に見せ付けるように晒すべきだ。
それなのに隠すように持ち去ってしまうとは、それでは何のために見せ付けるように殺したのか分からない。
――正義の味方は、詰めの甘い男なのか?
画像を表示して眺める。
第100代ブリタニア皇帝ナナリー・ヴィ・ブリタニアと手を取る初代扇首相写真だ。
ナナリー皇女は足が不自由なのだろう、車椅子に座しておりそれを補助するかのようにゼロは立っていた。
まさか皇帝に妹と同じ名前が存在したとは。
…心なしか顔立ちも似ている気がする。
ナナリーも大きくなったらこの皇帝のようになるのだろうか?
ぼんやりと考えていると自室に向かって走ってくる足音が聞こえる。
いぶかしみながらドアのほうに顔を向けると、いつもは礼儀正しくノックをしてドアを開けるはずの咲世子さんが冷静さを欠いた顔で飛び込んできた。
「ル、ルルーシュ様!!!」
「咲世子さん?どうしたんですか?なにか…ロロとナナリーの体調が悪化したとか…!!」
ルルーシュにある心当たりといえば、先ほど穏やかに眠っているのを確認した双子のことくらいだ。
もしかして先ほどのは一時的な穏やかさでまた酷い熱をぶり返したのだろうか――?
「急いでテレビを、ニュースをご覧ください…!!旦那様が!!」
言われるがままにリモコンで電源を付けニュースにチャンネルを合わせる。
『速報LIVE』と右上に表示された画面ではアナウンサーが切羽詰った顔で中継している。
『ただ今情報が入りました!!失踪したとして国家反逆罪に問われたフェネット一家が脱走した事件ですが、自衛隊によって今、たった今再逮捕されたようです!!』
「!シャーリー!!!!」
画面に映っているのはクラスメイトのシャーリーとその両親と思われる男性と女性の写真だ。
「どういうことだ!?失踪したのは知っていたがつかまったのか!?」
「はい。どうやらルルーシュ様がご帰宅なさる前頃に逮捕されていたようです。」
「そして何だ?一回脱走したのか?そしてまたつかまったのか!?」
「…ルルーシュ様……ことはそれだけではありません!!!」
「どういう…」
「実はフェネット一家を脱走する手助けをしたのは旦那様――シャルル様ではないかとして今尋問されていると情報を手にしました。」
「……なんだと!!!?父上が!?」
父がシャーリーの家族の脱走の手引きをしただと?
あの父は人に優しく人情家だ。
とらわれた一家を哀れんで手助けをする様が目に浮かぶ。
赤紙が来て逃げ出す人は多い。
しかしそれを自衛隊が見逃すはずも無く、彼らは国家反逆罪として厳しく罰せられる。
どういう罰が下るのかは国民は知らないが、きっと想像を絶するものなのだろう。
それを知っている父が彼らを助けたいと願わないはずが無いのだ。
くっ!と唇をかみ締める。
なんでこんな目に父が…シャーリーの家族があわなくてはならないんだ!
『―なお脱走の手引きをしたとされる、シャルル・ランペルージ容疑者も国家反逆罪に問われる模様です。今後の処罰は軍事裁判によって判明する模様です。』
『中継ありがとうございます。現場は慌しいようですね。裁判はいつ頃になる見通しですか?』
『今回の件を国は重く見ているようですので、明日にでも始まるのではないかと予測されています。』
「ルルーシュ様!!」
目の前が真っ暗になった。
この記事にトラックバックする