絆~ゆかり~⑤
(ゼロの姿を借りて――いや、俺がゼロになってこの国を壊し、変えてみせる。)
処刑の日まであまり時間は無い。
ルルーシュは弟妹と学校に行ったあと、ばれないようにこっそりクラブハウスの自室に戻り情報をかき集めた。
幸いゼロの画像も動画もネット上にあふれており、彼を知るために役立った。
政府の情報、世界情勢に今後の動きなど考えることは沢山あった。
ルルーシュは頭がよかったがお世辞にも体力があるとは言いがたいことを自分でも渋々理解していたし、体が疲れを訴えてくるのもわかっていた。
しかし休むことなく作業をしている彼を突き動かすのは、家族への想いと国への怒りだった。
「―――?」
ゼロの動画を食い入るように見つめていたルルーシュはふと違和感を感じ停止ボタンを
押し、新たなウィンドウを開き先ほどまで見ていた動画を再生した。
何かが引っかかる。
ルルーシュは自分のこういった勘を疑ったことは無く、きっとなにかあるはずだと双方の動画を流しては止め、違和感の正体を探った。
「――まさか……ふたりいるのか?」
最初に現れたゼロの動画。
彼は奇抜なポージングに人をうまいほうに誘導するかのような決め台詞、そして何よりもカリスマに溢れた存在だった。
何より、あのタイツを着れるほど細いのだ。
そして支配戦争の後のゼロの動画。
どちらかというと軍人のようなキレのある動き、驚異的な身体能力で人を圧倒し、触ったら切れるのではないかというような雰囲気にあふれる存在。
こちらは細いが何処と無く筋肉質で、先ほどのゼロとはやはり異なる存在である事が分かった。
「ふたり…だな。他の動画を見てもこの二人以外ではないことは明らか…。途中から入れ替わったのか。だが何故だ…悪帝から世界を救い新たな世界を造るとしたら、最初のゼロの方が効果的のような気もするが…。」
口に手をあて、考え込む。
変わらなければならなかった。変わる必要があった…死んだのか?前のゼロは?
そういえば途中で彼の部隊であったはずの黒の騎士団はブリタニアの皇子のほうに席を変えている。
「ま、どうでもいいことだ…時間が無い。」
ゼロの動きと口調を徹底的に叩き込んだ後、ルルーシュは一晩で練り上げた作戦を行動に移し始めた。
(まずは衣装作り――だな)
フェネット一家とシャルル・ランペルージの判決が出されてから一週間後、とうとう処
刑が決行される日が来た。
彼らは大衆に見せ付けるかのように剥き出しのトレーラーの上に貼り付けにされ、処刑場まで運ばれる。
より多くの人に見せ付けれるように選ばれたのは大きな国道で。
皮肉にもその道は、かの悪帝が殺害された場所として有名な通りだった。
午後7時。
太陽もすっかり身を隠し、空が暗くなった頃に彼らを乗せたトレーラーは自衛隊を出発し目的地へと向かい始めた。
政府の目論見通り、道には沢山の人が溢れかえっていた。
そこにはシャーリーとルルーシュの生徒会仲間であるミレイ、ニーナ、カレン、リヴァルの姿があった。
みんなの顔には悲壮感が漂い、ニーナなど既に泣いていた。
「なんで…こんなことになっちゃったんだよぉ。」
リヴァルは傍らにあった電柱に拳をぶつけ、親友と友達に何もしてやれない自分の情けなさを憂いた。
ほおって置けば拳がつぶれるまで殴り続けそうなリヴァルの手をとり、ミレイは少しず
つ近寄ってきたトレーラに目を向けた。
「皆、今日の事を決して忘れてはだめ。私たちの仲間とその家族を奪い去るこの行為を
行った国を、許しては駄目なんだから…。」
「ミレイちゃん…誰かに聞かれたら……」
「聞かれたって構いやしないわよ!みんなそう思ってるんだから。ですよね、会長。」
「…そう願うわ。まだこの国の国民は腐ってないことを…。」
徐々に近づくトレーラーにシャーリーの姿を見つけた彼らは出来る限り近づこうと群衆を書き分けて前に進み、道に飛び出した。
「シャーリー!!!」
「シャーリーーー!!!」
声が届いたのか、貼り付けにされたシャーリーの暗い顔が彼らの方へゆっくりと向けられた。
「シャーリー!!」
叫ぶ彼らに向かって自衛隊が駆け寄ってくる。
「こら!貴様ら!静かにせんか!!」
「うるさい!友達なんだ…仲間なんだよ!!」
「だからなんだという。」
ジャキと銃を向ける数人の自衛隊に囲まれ、リヴァル達は悔しげに口をかみ締める。
シャーリーの方に向ければ、彼女は諦めきった笑顔をこちらに向けている。
「シャーリー…いやだ…いやだ!!!」
カレンが自分達に向けられる銃を物ともせず再び暴れだし、トレーラーに近寄ろうとしたが、ついに武力行使にでた自衛隊に地面に押さえつけられ「離せー!!!」ともがいていた。
そんな彼女を見たシャーリーが声を張り上げた。
「もう、もういいの!カレン!!!私たち、間違ったことをしていない!」
「おい、勝手にしゃべるな、罪人が!!」
「私たち、間違えたことをしていない!戦争をする事が間違ってるんだわ!!」
「いいかげんにしないか―――!!」
静止の声を耳にせず、叫び続けるシャーリーを男が殴りつける。
口の中をきったのか、シャーリーはしゃべるのを辞めたが、男をにらみ付けることは辞めなかった。
道に飛び出してきたリヴァルたちを無理やり歩道の内側まで押し込めると、指揮官と思わしき男が片手をあげ、行進が再び開始されようとしたときの事だった。
突然進行方向に一つのトラックが現れた。
『待っていただこうか、自衛隊の諸君。』
車から聞こえてくる尊大な声。
黒一色で塗りつぶされたその車の天窓から、仮面をかぶった男が身を乗り出していた。
「まさか…ゼロ!?」
驚いた声を上げる人々にゼロは「くっ」と笑いを零し、指で空を指すように手を上げた
瞬間、トレーラーの護衛に当たっていた自衛隊全員は黒尽くめの部隊に背後から銃を突きつけられていた。
「何のまねだこれは!!」
『そう叫ばなくてもこちらまで聞こえますよ玉城一佐。』
「くっ!何のまねだと聞いている!」
『見てお分かりにならないのですか?処刑されようとしている彼らを助けようとしているんですよ。』
「いくらゼロだと言ってもそんな勝手なまねは許されないぞ!!」
『――私は悲しい…。いつからこの国はこんなに腐りきってしまったのか…。200年前、私が悪帝を倒し、一度は得たはずの平和を自ら崩すなど国家とはおろかなものだ…そうは思わないか日本人の諸君!』
ゼロは参道の人々に向かって大きく手を広げた。
『私はこのように平和を壊し、国民を道具、戦力としてしか見なさない国を許さない。』
片手を胸元に戻しぎゅっと握りこむことで怒りをあらわにする。
『ここに宣言しよう。私はこの国を変える、と。』
「くそ!これ以上アイツにしゃべらせるな!!黙らせろ!」
「し、しかし一佐、この状態では…従えません。」
「お前らが撃たれようがなんだろうが関係ない!あいつを倒せば死んだ後にでも昇格してやる!!」
その声を聞いても隊員は銃をゼロへ向けようとしなかった。
ゼロは仮面に手を当て、ため息を吐くようなポーズをとる。
『日本国民よ!これが自衛隊という名の国家機関による支配なのだ!』
『私はこの支配から皆を解放しよう…力なきものよ、我を求めよ!!力あるものよ、我を恐れよ!!』
その言葉をきっかけに黒尽くめの部隊が自衛隊を拘束し、とらわれていたフェネット一家とシャルル・ランペルージを解放し、瞬く間に消え去った。
「ゼロだ…ゼロが帰ってきたんだ!!!」
そう語る人々の声は、どこか希望に満ち溢れていた。
「ふっ…本質とはどうあっても変わらないものらしい。みたか?あのポーズ。まさか輪廻転生という物を見ることが出来るとは思わなかったぞ?」
「なに言ってるんだC.C.問題はそこじゃないだろう。」
「どうするんだ?このままほおって置けばあの『ゼロ』がこの国を平和にしてくれるぞ?」
にやっと笑う彼女に「分かってるなら聞かないでよ…」とぼやき、男ははずしていた仮面を手に取った。
「いこうC.C.、彼の元へ。」
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