地下通路の出口は学園に隣接するビルに設けてあった。
そのビルもアッシュフォードが経営しており、中のテンポには商社やコールセンターなど様々な会社が入っていた。
今日は第一級国家反逆罪人の処刑があることで、国民は5時に会社や学校から出ることを徹底されていた事もあり、ビルは無人でルルーシュたちには好都合だった。
勿論この事も最初から考慮に入れていたわけだが。
夜の闇だけでは心もとないと、ルルーシュは帽子を取り出しナナリーにかぶせた。ふわふわした長い髪も纏め上げて帽子の中に入れる。
ロロには伊達眼鏡をかけ、自分はワックスを付け髪を癖毛気味にセットする。
C.Cという女は、髪が緑な上に長くて目立つこと請け合いなしだが、計画外のことの為これ以上変装用の道具は持っていない。
仕方なくナナリーのヘアゴムを拝借して後ろで一つに結ぶ。
「まさか髪を結ぶことも出来るとは…」
「ナナリーの髪型を毎朝セットするのは俺の役目だからな。」
「シスコンもここまでくれば病気だな。」
「病気だと!?……って、おい!」
憤慨する俺を無視して女はビルから出ようとする。
「ちょっとまて!勝手に行動するな!」
「うるさい。今は雑談している暇はないと言っただろう?早く行くぞ。」
「ちっ!!」
またも女の言いなりになることはルルーシュのプライドをいたく刺激したが、イライラいしている場合じゃない。
大きく息をつくことで意識を切り替え、外の様子を伺い安全を確認した後すっと道に出る。
先ほどの混乱のせいか、まだ道には人も多くざわざわとしている。
雑踏にうまく紛れ込むことに成功したルルーシュは緊張を保ちつつ、険しい顔つきをはずし普段の表情を装った。
女の出現により予定が狂い、予想外の事態に弱い自分としては厄介なことではあったが、頭数が違うことで「三人組」と思い込み探している自衛隊の目をうまくごまかすことが出来るかもしれない。
実際に何度か奴らとすれ違ったが自分達に気が付く様子も無く、通り過ぎていった。
(無能な奴らめ…)
この女と「アイツ」とやらが現れなければ、クラブハウスにいた時点でつかまっていた可能性は45%もあった。それを考えればこの事態はありがたいことなのだろう。
何度も角を曲がり人気の無い地区へと向かう。
まっすぐとアジトへと向かうのはもし自衛隊に自分達の存在が気づかれた場合に得策ではないと考えたからだ。
こんな場所を四人で歩くのはハイリスクだったが、二手に分かれて目的地へ向かう事は選択肢に無かった。
弟妹はまだ幼い。不測の事態に鉢合わせたときにうまく対処できるか分からないし、第一心配性な自分が落ち着いて行動できるという確信がなかったからだ。
そうしていくと、一つのビルにたどり着く。
「ナナリー、ロロ。無事に着いたよ。」
「兄さん…ここは何処なの?」
「後で説明するよ。とりあえず今は中に入ろう。」
正面玄関ではなく、警備員が出入りするようなドアのロックをはずしビルに入る。
そしてそのままエレベーターのボタンを押し、乗り込む。
階数のボタンのパネルの下にはよく見ると小さな鍵穴があり、ルルーシュはそこの錠をはずすと、しゅっと銀板が開き新しい階数パネルが現れた。
そこにある10のボタンを押すとエレベーターは下へと降りていった。
目的地につき、エレベーター降りると薄暗い回廊を下のほうから間接照明がぼんやりと照らしていた。
きょろきょろと回りを見渡している弟妹と、何を考えているのか分からない表情をしている女を横目に、ルルーシュはエレベーターから離れ更に足を踏み出そうとしたのだが。
ジャキ
「お前達、何者だ。」
「どうやってここにもぐりこんだ!」
黒い衣装を着た男達に銃を向けられ、歩をとめられた。
そこでルルーシュは自分がゼロの衣装を着ていない事を思い出した。
今まで自分はゼロとして彼らと接しており、自分の顔を知っているものはいない。
つまり、今自分達は何者かがアジトに侵入してきたと勘違いされている。
焦った事で冷静さを欠いた自分に舌打ちをしたくなったが、へたすれば男達を刺激しかねない。
それに実を言えば弟妹達の前でゼロの衣装を着たくなかったという事が深層心理で働き、無意識にその事を考慮からはずしていたのかもしれない。
父を救ったのだからゼロであってもきっと弟妹は受けいれてくれるだろう。しかし自分が計画しているのはこれだけではないのだ。
きっとこれから自分は目的の為に手を汚すだろう。
そんな自分をみて弟妹達が嫌悪の表情を浮かべたら自分はきっと耐えられない。
そういった甘えが今の危険な状況を作り出しているわけだが。
どうしようかと考えをめぐらせる中「何者かと聞いている!」と男が銃を突きつける。
「早く答えろ。早くしないとこの子供がどうなっても知らないぞ!」
そういってナナリーとロロに銃を当てる男達に頭が血が上り「やめろ!」と叫び声を上げた時。
「その者たちを通せ。私が招待した方々だ。」
「ゼ、ゼロ!今まで何処に!探していたんですよ。」
「すまない。彼らを保護しに出かけていた。」
そういって先ほど自分達が降りてきたエレベーターから現れたのは、自分が先ほど着ていたゼロの衣装と全く同じ物を着た男――『ゼロ』
「なっ…!なぜ……!!」
驚き目を見開くルルーシュをよそに「思ったより早かったな」と声をかける女を見て、さっき言っていた『アイツ』とはこの男のことなのだろうと察する。
「しかし、この者達は一体誰ですか?」
「先ほど保護したシャルル・ランペルージのご家族だ。あのまま家にいたら自衛隊につかまるだろうと思ってここに連れて来た。」
「自衛隊が捕まえるんですか?」
「人質として使われかねないだろう?それに何処に行ったか吐かせるために尋問に掛けられないとも言い切れない……おい、銃を下ろせ。彼らは私の部屋へ案内する。」
「分かりました。」
「このまま警備を続けてくれ。君たちは優秀な隊員だ。期待している。」
「「「はっ!!」」」
びしっと敬礼をして元の位置に戻る彼らを見届けた後、『ゼロ』は薄暗い回廊へと進む。
呆然とそれを見る俺たちに「何をしている。早くついて来い」と『ゼロ』は呼びかけ俺たちを呼ぶ。
はっと正気に返り訳の分からないまま『ゼロ』と横に並び立つC.Cにロロとナナリーの手を繋いで付いてく。
(何がどうなっているんだ…くそ!)
シュンっと機械的な音を立ててドアが開く。
ここはルルーシュさえも知らない部屋だった。
もともとこの施設は支配戦争から自国を救おうと活動していた「黒の騎士団」が保有するもので、今後の活動にもってこいだと活用させてもらっている場所だった。
その為、まだここを使用しだしてから間もないルルーシュは知らない施設も多かった。
しかし、自分を混乱の渦に巻き込んでいるこの二人はこの場所を知り尽くしているように見受けられる。
「おい、お前達。おなかがすいているだろう?」
「……C.C、今はそんな時ではないと言ってるだろう。」
苦い声をしている『ゼロ』に女は何事か耳打ちした後「そういうことなら…」と『ゼロ』は頷き、「ナナリー嬢、ロロ殿。C.Cが今から食事の準備をするんだが…もしよかったら手伝ってもらえないだろうか?」と声をかける。
チラと仮面越しに『ゼロ』と目があう。
彼らのいないところで話をしようという合図のように感じ、弟妹に「手伝ってさしあげなさい。」と促すと、C.Cと一緒に部屋の奥のほうへと行った。
二人っきりになり、『ゼロ』と仮面越しであるが見つめあう。
ルルーシュは何から口に出していいのか判らないほど既に混乱しきっていた。
自分がゼロを演じていたはずだ。それなのに新たに『ゼロ』が現れ、さも当然といわんばかりにこの空間と組織になじんでいる。
「お前は何者だ?」
何を言おうか考えていたわりにするっと出てきたのはこの質問だった。
「私は『ゼロ』だ。」
「ゼロは俺だ!!」
「いや、私こそが真の『ゼロ』。君は私のただの模倣者に過ぎない・・・。」
「だが、ゼロは100年以上前に姿を消したはずだ!」
そう。それが本当ならこのゼロは200歳以上の時を生きているということになる。
現実主義のルルーシュはからかわれていると思い自称ゼロを思い切り睨んだ。
「確かに私は姿を消した。しかし強すぎる力を持ったものは時がたてば平和の存在から脅威へと姿を変えると思わないか?」
確かに自分たちに平和をもたらした偉大な存在は一時はありがたい存在かもしれない。
しかし完全に人々が平和と自由を得て、新しい生活を始めたらその大きな力を持つ人物はまた自分たちを支配する強者になるのではないかと疑心を持たれるだろう。
「そうこうしているうちに君が『ゼロ』をなのって世間に出てしまった。それは真の『ゼロ』たる私にとっては困るのでね。」
「・・・・・・それでお前は何がしたいんだ。」
『ゼロ』は右手を大げさなしぐさですうっと上げルルーシュに伸ばした。
「取引をしよう、ルルーシュ・ランペルージ。」
「取引・・・・・・だと?」
「ああ。私もせっかく平和になったこの日本・・・いや、世界が崩壊していくのは困る。」
「・・・・・・それで?」
「君の頭脳は優秀だ。卓越している・・・。そこで君は私の参謀になってもらいたい。」
「参謀?」
「ああ。君が立案し望んだことを私が『ゼロ』として成し遂げよう。――君に幸せな生活を返そう。」
「できる確証は?俺がそのまま『ゼロ』をやったほうが早い。」
「君が知らない『ゼロ』を私は知っている。それに・・・ だから。」
「?」
ゼロが暗いトーンで言った言葉は聞き取れなかったが、自分に聞かれたくないことだったのだろう。
気にするなと手をふり、再び俺に手を差し出す。
「どうする?ルルーシュ・ランペルージ。味方がいたほうがやり易いだろう?」
この男もC.Cも、一体なんなんだ。
俺はこいつらを知らないし知っているはずが無い。
なのになぜか断るという選択肢すら存在しないほどこいつらを心のそこから信頼しようとしている。
わけのわからない感情にむかむかしながらゼロを見つめる。
仮面で見えない彼の顔はきっと真剣な表情をしているのだろう。
気が付くとルルーシュは彼の手を取っていた。
「分かった。結ぼう、その契約!」
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