手を取り合ったことで、ルルーシュとゼロは共犯者になった。
今から成そうと目論んでいることは簡単なものではないし下手を打てば自分たちが破滅させられかねない。
(だが、こいつとなら――)
コツコツと足音を立ててゼロが入り口の方に向かう音でルルーシュは思考の淵から戻った。
「どこに行くんだ?」
なんとなく離れがたくてすがるような声が出てしまい、カッと頬が熱くなる。
(なんて声を出してるんだ、俺は!)
運良くゼロは振り返らずに「少し待ってろ。」と告げて出て行ったので、醜態を見られずに済んだが、本当に先ほどから自分はおかしいと思う。
まずあの緑の女。
あんな奇抜な女に出会っていたら強烈過ぎて忘れるはずがない。
それなのに会話の節々に現れる俺を熟知しているかのような表現。
『今はブラコンも追加されているのか――』とはどういうことだろうか。
俺はもともとブラコンでシスコンだ。
それに『ゼロ』。
俺を模倣――いや、実際模倣ではあるが偽者と言い放ち、しかも自分こそが本物と振舞うなぞの男。
真のゼロ…か。
もしかしてゼロは代々継承されているのか?。ゼロという平和の監視者をこの世からなくすわけにはいかない。
そう考えれば、あの動画のゼロが二人いる理由もはっきりわかる。
きっと前代のゼロが次の代に仮面を譲ったのだ。あの時必要なのは頭脳派ではなく武道派だったのだろう。
そして先ほどまでクラブハウスで自衛隊を相手に対戦していたはずのあの男は間違いなく後者であり、だからこそ自分という参謀を欲したに違いない。
なるほど。と一人で相槌をうんうんと打っていると「何一人でうなづいているんだ?おかしなやつめ」とあの緑の女の声がした。
振り返ると女とロロ、ナナリーが大きな皿を手に持ってルルーシュのいるほうへと歩いてくるところだった。
部屋の真ん中には比較的大き目の机と、長いすが2脚、普通の椅子が2脚で四隅を囲むようにしておいてある。
机の上にそれぞれ手にした皿を置くと、おいしそうな香りが部屋中に蔓延する。
「いい匂いだな。ロロとナナリーが作ったのか?」
「はい!でもピザはC.C.さんが作りました。」
「ふっ。ピザつくりで私の右に出るものは居まい。」
そういうだけあって彼女の作ったピザはとてもおいしそうだ。
ただ――その量を省いて。
「お前、いったいどのくらい食べる気なんだ。」
「ん?3枚だが?」
「3枚ってきった分3枚ということか?」
「何を言っている。丸ごと3枚、に決まっているだろう?」
「だから4枚もあるのか…ってお前が一人で半分以上も食べるのか!」
「私が作ったんだ。私が食べて何が悪い。」
ああいえばこういう…このクソ女!!
「まあまあ兄さん、おなかもすいていることだし、冷える前に食べちゃおうよ。」
やさしく促すロロに(俺の弟はなんて優しくて気が利くんだ…!)と感動しつつ、「ああ。」と答えて隣に座った。
ナナリーはいつの間にかC.C.になついたらしく、隣に座りニコニコと笑いながら話しかけている。
(お兄ちゃんはさびしいぞ――!)
嘆きながらも弟妹の愛情の篭った食事を食べようとしたときに、ん?と疑問を抱く。
「おい。ゼロは食べないのか?さっき出て行ったままなんだが…。」
「ああ、あいつは人と一緒に食事はしないのさ。これがあるだろう?」
ちょいちょいと顔の辺りを指差している。おそらく仮面のことを意味しているのだろう。
「じゃあゼロさんはいつも一人で食事をなさっているんですか?それではきっとさびしいです…。」
「ナナリー…。」
あんな謎の仮面野郎の心配をするなんてなんて俺の妹は心優しいんだ!!
うおおお!とシスコン魂にまた火がつかけたときに、シュンっと音がしてドアが開いた。
「ルルーシュ!ロロ、ナナリーも!!」
てっきりゼロが帰ってきたのだろうと思っていたが、そこに居たのは数年前に徴兵されたっきり会うことがかなわなかった父の姿だった。
「お父様!!」「父さん!!」
駆け寄りすがりつく弟妹をぎゅうっと抱きしめる父の姿。どこかやつれたように見える。
涙ながらに再会を喜ぶ三人に、さすがに抱きつくことはしなかったが、ルルーシュも近寄って「父さん」と声をかける。
はっと顔を上げて自分を見つめる父親の顔は涙にぬれて、お世辞にもかっこいいと言えないものだったが、そんな父だから自分たちは大切なのだ。
「ルルーシュ…お前一人に今まで色々させてすまなかった……きっとつらいこともたくさんあっただろうに。」
「そんな…なんてことはないよ。ナナリーもロロも、一生懸命俺を手伝ってくれた。それよりも―――無事でよかった…」
「ああ、ゼロのおかげで助かったよ。」
その台詞に(助けたのは俺だ)とムッとする。
契約を結んだとはいえ行動を起こしたのは俺で、途中からひょっこりでてきたあいつに武勲を掻っ攫われるのは正直癪に障る。
でも、父が無事だった。それでいいじゃないか――。
「感動の再会もいいが、早く食べないと冷めるぞ?」
「どこまでKYなんだ!お前は!!!!」
久々の家族団欒(+KYの女は居座り続けた)をすごす。
弟妹の表情は普段よりも明るく、やはり父親の存在は大きいなと改めて実感する。
自分は徴兵された父の分も彼らを守り育てようと頑張ったが、やはり父親とはどこか存在感が違うものだ。自分自身、彼が輪の中に戻ってきてくれたことで頼もしさを感じている。
シュンっと扉が開く音がすると、今度は本当にゼロが入ってきた。
「家族団欒を邪魔してすまないが、もう結構な時間だ。そろそろ就寝の支度をしたいのではないかと思ったんだが。」
「ゼロ…気を使っていただいて申し訳ない。」
「いや、気にしないでくれシャルル氏。この基地ではこの部屋が一番広く作られている…ここをあなたたち家族の住居に使ってもらってかまわない。」
「そこまでしていただいていいのだろうか?」
「あなたは今まで家族と引き離されてきたんだ。今からはゆっくりともにすごすといい……。」
「ありがとう…!」
ゼロは彼の心遣いに再び涙目になるシャルルをよそに「ナナリー嬢、ロロ殿。シャワールームは二つあるから入ってきてはいかがだろうか。」と促している。
ナナリーとロロ、そしてなぜかシャルルまでシャワールームに向かったところで。今まで俺には無関心だったゼロこちらを向く。
「シャーリー・フェネット嬢もつれてこようと思ったんだが、緊張の糸が切れたのか眠っていたよ。」
「そうか…無事ならいいんだ。」
「フェネット一家も無事だ。気にするな―――それより。」
カツカツと自分のほうに近寄ってきたかと思えば、ゼロは俺をぎゅっと抱きしめた。
「なっ!」
なにをする!と突然のことにゼロを自分から引き剥がす。
ゼロはそれに動じた様子もなく俺のほうをじっと見つめてくる。
ドアの開く音がしてそちらに視線を向けると、C.C.が部屋から出て行くところだった。
「何のつもりだ!いきなり抱きつくなんて――!」
心底いやなことではあるが、どうやら自分は男に好かれる対象内に入っているらしく、学校でも呼び出されることが稀にあったくらいだ。まさかゼロまでそんなやつだったとは…。
睨みつけて距離をとろうとした時、ゼロがすっと手を伸ばして俺の頭に手をのせた。
「なぜさっき泣かなかった。」
「―――は?」
「さっき父親と再会したときだ。『無事でよかった』と告げたとき、本当はお前も泣きたかったんだろう?」
「そんな…俺はそんな、もう子供じゃないし…あれくらいで泣いたりは――。」
「家族とまた一緒にいれるんだ。――嬉しくないのか?」
「嬉しいに決まってる!」
「ならどうして一緒に居ることができて嬉しい家族の前で自分を我慢し、偽るんだ。」
いまだに頭に手をのせているゼロの胸にドン!っと拳をあてる。
「俺は……ナナリーとロロを守る為に…家族の為に、こんな事で喜んだり泣いたりする訳にはいかないんだ!」
「……意地っ張りだな。」
「何とでも言え!」
ドン!ともう一度胸をたたいてやる。
それを無視してゼロはもう一度、今度はやさしく俺を抱きしめてきた。
「泣いたっていいんだ。人は泣いて、また強くなることができる…。感情を抑えるな……お前が喜んだり泣いたりすることを彼らの前でできないのなら、俺の前ですればいい。」
「な…んでお前の前なんかで。」
ゆっくりと優しくなでてくれる手と暖かい彼の体温に、我慢ができず涙目になる。
それを見られたくなくて、彼の肩に顔を押し付けた。
「我慢しなくていい……お前は今までよく頑張った。それに」
これからは俺が半分背負ってやる。
その言葉を聴いた瞬間、涙は目から零れ落ち、彼のマントの色が変わった。
ゼロの言うとおり、本当はあの時泣いてしまいたかった。
『無事でよかった―――!』と父に駆け寄って泣いて再会を喜びたかった。
しかし、自分の心にある自ら作った壁がそれを許さなかった。
それをこの男は『よく頑張った』の一言で壊してしまった。
泣いてもいい、ありのままの自分を見せてもいい。
一緒に背負ってくれると、いってくれた。
そういわれた事で自分の中にあった何から開放された様で、ルルーシュは涙をとめることができなかった。
(――あったかい。)
何もいわずにただ抱きしめ続けてくれたその腕の中でルルーシュは眠りについた。
「おい、食事はとったのか?一枚ならピザを分けてやってもかまわない。」
「ありがとう。じゃあ一枚だけもらおうかな。」
「どうだった?私の王は。」
「……本当に変わらない…彼がそのまま帰ってきたみたいで正直動揺している。」
「ふふっ相変わらずのブラコンシスコンで笑ったぞ?」
そういってチーズのたっぷり乗ったピザを差し出してくれるC.C.に「ありがとう」とお礼を言ってそれを咀嚼する。
やはり彼女の作るピザは絶品だ。
絶品だがおいしいとは感じられない。そうなってから既にどのくらいの時がたっているのだろうか…。もう数えようとも思わない位だ。
「C.C.、また彼にギアスを渡すのか?」
「『王のギアス』はルルーシュが持っていったからもう存在しない。」
「そうか…。」
「まああいつには『女王のギアス』の方があっているかも知れないな?」
その言葉に思わず笑みを漏らしたゼロを見てC.C.は願う。
早く二人に心からの笑顔が戻るようにと。
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