今朝も早くからKMFの起動実験がある。
普段の準備の上に、今日からルルーシュも特派へ行くと言い出したので彼の分のお弁当や水筒に待ち時間退屈でないようにキャンディーや小さなチョコレートをルル用のリュックに詰め込む作業があり、いつもより早起きしなくてはならなかったが、ルルーシュを一人この部屋に残していった時の心配と比べると、どうって事はなかった。
「しゅざく~アーサーも連れて行っていい?」
幼い腕には重いだろうにアーサーを抱き、とてとてと危なげな足取りでお弁当を詰めるスザクの元にやってきたルルーシュを見下ろす。
今日のルルーシュの服装は黒のハイネックにグレーの短パン、黒いハイソックスだ。どうやらモノトーンの装いが好きなようで、ルルーシュによるセレクションである。
出勤するときはコートも着ようね?と先日買ったフードつきで丈が比較的短く、着込むとかわいらしい照る照る坊主のようになるコートをルルーシュもスザクも気に入っていた。
「アーサーかぁ…う~~ん特派は精密機械を扱ってるから…」
「……だめなの?」
しゅんっとうつむくルルーシュに罪悪感を抱き、携帯電話を取り出して上司に掛け合ってみる事にした。
『はいはーい。なーにかな?』
「おはようございますロイドさん。朝早くすみません。」
『いーや。んでなになにぃ?仕事休みますってのはきかないよ~?』
「いえ、あのですね?今日からルルーシュをつれて出勤させていただくんですが、」
『はいはい。お待ちしてますよー!!』
「って切らないでください!!」
『おや。まだ続いてたのかぃ?礼儀正しい君の事だから事前にもう一度確認したいのかと思った。』
「それもですが…あの…猫って連れて行ってもいいですか?」
『ねこぉ?』
「は、はい。ルルーシュの飼ってる猫なんですが…あの!躾も行き届いておとなしいですし、ランスロットの機材には近づけさせないんで!!どうかおねが―」
『別にいーよー。連れといで~。じゃあまた後で~~ピッ!』
「え?ロイドさん!?」
まったく切るのが早いんだから…とため息を吐くと、ルルーシュがぎゅっと足に抱きついてきた。
「しゅざく…どうだった?アーサー、いいって?」
不安に揺れるその瞳に視線の高さをあわせる様にしゃがみ、ルルーシュとその腕に居るアーサーの頭をぽんぽんと撫でる。
くすぐったいよぉと体をよじるルルーシュをぎゅうっと抱きしめて「アーサーも、一緒に行こう。向こうに着くまではこの間買ったゲージに入っててくれるかな?」
「わーい!ありがとうスザク!!」
「にゃー!」
「お礼はロイドさん…上司ね、に言ってね。」
「はーい!アーサー、ゲージに入ろうね!」
そういってアーサーを連れて部屋の置くに戻ったルルーシュに柔らかい微笑を向けて、ふとお弁当を詰める作業が途中だった事を思い出す。
昼ご飯、もしものために小さめのおにぎりを二、三個持参するのはセシルの素晴らしい創作料理からルルーシュを守るためだった。
一人暮らしが長いとは言えど、自分としては料理が上手ではないと自覚しているが、彼女の作るものよりはましだろう、と再び作業に戻る。
「しゅざく~もう半だよ?」
「え!!!」
ルルーシュの声に慌ててお弁当を詰めてルルーシュにコートを着せて、リュックをからわせる。帽子を被りたがるのでニットでできたボンボンのついた帽子を被せてあげた。
アーサーはおとなしくゲージに入っており、スザクが持ち運んでも構わないといった視線を向けてきたので「ごめんね、つくまで我慢してね。」と声をかけると、ルルーシュと開いた方の手をつなぎ家を後にした。
自宅から特派までは車で15分。徒歩で20~25分といったところだろうか。
お坊ちゃま出身であるルルーシュは途中でへばってしまい、そこからはスザクが抱き上げて移動する事になった。
片手に子供、片手に猫のスザクの出立ちは当然だが軍施設で目立ち、スザクはルルーシュを隠すようにして抱きながら足早に特派へと向かった。
「おはようございます。」
「おはよう、スザク君。あら…その子がルルーシュ君ね?」
「はい。…ルルーシュ挨拶して。僕の上司のセシルさんだよ。」
行儀が悪いかと思ったが、ルルーシュがスザクの服の襟を掴んだまま離さないので、腕の中から挨拶させる事にした。
「はじめまして。ルルーシュです。」
「はい。はじめまして。とっても可愛いわね~。」
「こっちはアーサー。」
そういってゲージに入れられたままスザクに抱えられているアーサーを紹介する。
どうやら上司は猫を連れ込むことに抵抗がなかったので、腰をかがめルルーシュを一先ずおろすと、狭いところに閉じ込められたアーサーを出してやる。
やっと出られたとちぢこめていた体をぐいっと伸ばすように伸びをするアーサーをセシルさんも気に入ったようで、しきりに「可愛い!」と声を上げている。
見知らぬ場所で不安そうなルルーシュをもう一度抱き上げると「いいの?」とルルーシュが首をかしげる。
「いいんだよ。ルルーシュが落ち着くまでこうしててあげる。」
「…えへへ。ありがと、しゅざく。」
そういって微笑みあう二人を、いつの間にか現れたロイドと共にセシルが優しい笑みで見守った。
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