ルルーシュたちがブリタニアを出立した頃、都内ではブリタニアの皇子を出迎える準備が着々と行われていた。
当初の予定では警察のみが警備に当たる予定だったが、他国の首相を預かる事とは訳も規模も違う。
もしテロでも起こり、彼の国の皇子に傷でもつけたなら、重大な国際問題になりかねない。そう議論が起こり自衛隊までもが警備に加わる騒ぎとなった。
かといっても過剰に警備するのもよろしくないという事で、国外からの進入の警戒を自衛隊が。皇子の身の回りの警護を警察が行う事となった。これは各機関のトップを司る人々が手を握り合ったという証であり、いがみ合う両局をよく知る国民にとっては一大ニュースであった。
快斗は警察側の情報を手に入れるべく、寺井と共に警視庁や警察庁に取り付けた盗聴器から情報を収集していた。
隠れ家のひとつであるアパートには犯行には欠かせない機材や道具が所狭しと置かれている。
ブリタニアからの使者が第二皇子、シュナイゼル・エル・ブリタニアから第十一皇子、ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアに変更になった事はニュースで知った。
シュナイゼルの有能さは快斗の耳にも伝わっており、新一の言ったように彼が出てくるのであれば今回の仕事はかなりの難関になるだろうと思っていた。
しかし来日するのはルルーシュ皇子。
「ちっ…まだシュナイゼルの方が情報がある分やりやすかったってのによ~。」
「そうでございますね。ルルーシュ皇子の方はまったく情報がありませんから…。」
「大体ルルーシュ皇子なんて聞いた事ないぜ?優秀なのかそうでないのかさえわからねーんじゃ警戒のレベル決めるのに困るじゃん。」
「ブリタニア皇帝にはたくさんのお子さんがおりますからね。ぼっちゃま。いかなる相手でも最大限の注意を払うと約束したはずですよ。」
「あ~~はいはい。寺井ちゃんってば心配しすぎ!!」
耳に嵌めたインカムからは警視総監の声が聞こえてくる。
どうやら警備ポイントの確認などを行っているらしい。地点を暗号化して説明しているのは評価するが、あまりにもわかりやすい暗号に苦笑を漏らす。
「警察からじゃあまりいい情報は出そうにないね。」
「さようでございますか…ではいかがなさいましょうか?」
「ん~ちょっと伝を使って調べてみる。まずは貸し出される宝石がわからない事にはどうにも…多分皇子が日本に来てから発表されるんだろうけど~」
「では皇子周辺の情報を私が調べておきます。」
「ん!よろしくね、寺井ちゃん。じゃ、俺は新一のとこに行って来るね。」
「お気をつけて。」
寒い空の下、軽い足取りで米花町の工藤邸へ向かう。
はーっと息を吐き出せばそれは白く色を変え、季節が冬に変わろうとしている事を告げた。
「さっびーの。あ!肉まんくいてーかも…。」
工藤邸の近くにあるコンビニで自分と新一の分と二つを購入し、冷えないうちにと少し駆け足で向かった。
呼び鈴を鳴らすと返事が返る前に玄関のドアを開け、リビングに向かう。
完全暖房の人口の優しい温度に保たれたリビングでは新一がテレビを見ていた。
「新一~肉まん買って来たぜ~~」
「お。気が利くじゃねーか。ちょうど食べたかったんだよ。」
そういって手招きする新一の横に腰掛け、コンビニ袋から肉まんを取り出し彼に渡す。
「ん」とそれを受け取った新一はかさかさと包装を剥くと「あぐ!」と音がしそうなほど口を大きく開けてかぶりついた。
ボンボンの息子である彼にコンビニ製品など似合わないと思っていたあの頃(付き合い始めた当初)が懐かしい…と遠い目をしながら快斗も肉まんにかぶりついた。
テレビではブリタニアの皇子が明日来日するというニュースが流れていた。
「なんてタイムリー。」
「タイムリーなもんか。この関連のニュースばっかだぞ。」
「ふーん。一国の皇子が来日するってだけなのになんでこんなに騒ぐかねぇ。この間スペインの皇太子が来日したときはほぼ無反応だったじゃん。」
「ブリタニアは他の国とレベルが違うからじゃねーの?アメリカやEUをも凌ぐ超大国。その皇子がくるんだ。誰だって一目みたいと思うんじゃないか?」
「俺は皇子よりも宝石が気になるんだよなー♪」
「さすが怪盗。ルルーシュ皇子って俺らと同じ年みたいだぞ。」
「まじで?なんつーか親近感沸くなぁ。」
「勝手に沸かすな。んでもってその騎士は同じ年の日本人らしいぞ。」
「へ?日本人?さっき調べた情報にはなかったぜ?てか騎士制度があるってすごいよなぁ」
「ルルーシュ皇子ってのはどうやら引きこもりであまりメディアに露出しないらしいぞ。さっきシュナイゼル皇子の会見で初めて公開した情報だってさ。」
「あ、それならさっき見たけど…その情報は要らないと思って聞き逃した。」
「ったく。お前は必要な事以外は聞きとめない奴だよな。」
「新一は細かく覚えてる、いかにも探偵らしいね。」
お互いにやりとした笑みを向け、こらえきれずにぷっと吹き出した。
こういった他愛もない時間が、何よりも大好きだった。
新一がソファーで読書をしている傍ら、快斗は情報収集に明け暮れていた。
あまりにも情報がなさ過ぎる。
米花美術館の見取り図や警備情報はすでに手に入れてある。
しかし、宝石の情報がないならいざ知らずルルーシュ皇子に関する情報がまったく手に入らないのだ。
アングラの友人に聞いて回るも「シュナイゼルの補佐」や「庶民の后妃から生まれた皇子」という情報しか入ってこず、少し焦りを感じていた。
新一はそんな快斗をちらりと見やり、ぽんぽんとなだめるように背中をなでた。
そのときだった。
工藤邸の電話のベルが鳴り響いた。
新一はのっそりと立ち上がると電話の置いてあるテーブルに近づく。
「事件かな?」
「わかんね。――はい、工藤です。」
『おー!工藤か!俺や、服部や。』
「服部?久しぶりだな。何か様か?」
『いや、ちょっと世間話何やけどな。』
「そうか。今隣に快斗もいるぜ?」
『ほんまか?ならスピーカーフォンにしや。まとめて話そや!』
「ああ。」
ぴっとボタンを押すと『黒羽~きこえるか~?』と元気いっぱいの友人の声がリビングに響いた。
「聞こえるよ平次。ちょっと声でかいぜ?」
『さよか。これぐらいでええか?』
「OK!で、なんかあったの?」
新一は受話器をテーブルに置くと、元居た位置にポスンと座り快斗にもたれかかった。
猫みたいな彼はこうした些細なスキンシップが好きなのだ。それに「くそっ!可愛すぎる!」と悶える快斗だった。
『いやな、ブリタニアの皇子が来るやんか~それでな?俺の親父も警備に参加するらしいねん。』
「平蔵さんが?大阪府警の本部長まで出てくるなんて…大事だね?」
『ほんまは皇子は大阪にも来る予定やったんやけどな、東京以外には行かん事になったらしいわ。』
「珍しいな?普通はどこそこ回ってみるものだろ?」
「だよね?―で、なんで平蔵さんが東京に?」
『お上からの命らしいわ。念には念を入れて警備したいんやと。そんでな?俺も付いていく事にしてん』
「「は?」」
『やからな?皇子が滞在する一週間、工藤の家に泊めてんか?』
翌朝、工藤邸の呼び鈴が鳴らされ、予告通り服部が現れた。
「邪魔すんで~」と元気いっぱいの声にうんざりしつつ、客室に荷物を降ろさせて快斗の待つリビングへ向かう。
「よ!元気だったか~?」
「昨日電話したやん。元気やてわかっとるやろ?」
「けけっ挨拶に決まってんだろ?」
新一も快斗も久々の友人との再会に喜びつつも、やはり厄介な時期に来やがって…という気持ちが心の底にあった。
しかし彼が「せや。皇子に関するおもろい情報もらってきたんや」と言った瞬間その気持ちは消え去った。
ブリタニアの皇子が到着するまで、あと数時間。
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