ぱちっと目を覚ましたルルーシュは、まず室内を見渡してここが自室では無いことに驚いた。
寝起きの頭で、ここはゼロに宛がわれた自分たちの部屋だと思い出し、よく見れば隣のベッドでナナリーとロロが、その隣で父が眠っていることを確認する。
そして自分の記憶にスキャンを掛け、ゼロに抱きしめられて泣いたところで再生終了した時、ぼんっと音を立てて顔を赤くした。
(俺!あのまま眠って―――!!)
泣いてしまったことでさえ醜態をさらしてしまったと後悔しているのに、さらにあのまま眠ってしまうなんて…!
ルルーシュ・ランペルージ、一生の恥!!
俺は一体どんな顔をしてあいつに会えばいいんだ…。
(でも…なんだかほっとして……母さんに抱きしめられているような感覚だったな)
はっ!何を考えているんだ、俺は!!
頭をぶんぶんと振って恥ずかしい考えを振り切り、いまだに寝ている家族の為に朝食を作るべくキッチンへと音を立てないように注意を払いながら向かった。
皆が起床して食事を取り終わったのを見計らったかのように、ゼロとC.C.がノックの後に入ってきた。
どういう態度をとればいいのかドギマギしていたルルーシュをよそにゼロは何も変わらない様子で、接してきてルルーシュは何となく意表を突かれたかのような気分になった。
その上なぜかその態度がありのままの自分を受け入れてくれるという意思表示ではないか、と思ってしまったのだ。
ゼロは俺たちをメンバーのところに連れて行き、保護した旨を伝えた後にシャーリーと引き合わせてくれた。
シャーリーは俺の父を巻き込んだばかりか、俺たち家族までこういう状況に陥らせた責任を感じてずっと俺たちに謝罪していた。
しかし彼女が悪いわけではないし、命を張ってでも人を助けようとする父だからこそ自分たちは好きだし、心から慕っているのだ。
ルルーシュは彼女が自分に抱いてくれているような感情と同じものを返すことはできないが、彼女の笑顔が好きだったし、いつも笑っていてほしかった。
その後、日々はあわただしく過ぎた。
心配しているのであろうリヴァルや会長から携帯にひっきりなしに着信があったが、自衛隊の監視などいろいろな面から自分が持っていたものを使うわけにはいかず、困っていたところにゼロが新しい携帯をくれた。
彼らに連絡を取り、色々話を聞くとクラブハウスは戦闘の跡が激しく、ルルーシュたちが自衛隊に攫われたのではないかと心配していたが、自衛隊から行方を詰問された為検討がはずれ、どこでどうしているか心配していてくれたようだった。
とりあえず自分たちは無事だということを伝え、何かあったらこちらから連絡するからと電話を切った。
政府に大きな変化もあった。
とうとう自衛隊という名称を日本軍と改名したのだ。それが意味するのは戦争が間近だということだろう。
それを俺たちは見逃すわけにはいかない。
そろそろ自分たちの活動を本格的に始動しはじめることをルルーシュは考えていた。
俺は情報を集めたり作戦を練ったりするうちにゼロの部屋に入り浸るようになった。
彼の部屋にはC.C.が住み着いていたが、彼女は俺が部屋に行くと必ずふらっとどこかへ去ってしまう。
それをゼロに尋ねたこともあったが「ピザでも買いにいったんだろう」といつもはぐらかされていた。
ゼロは部屋でも仮面をはずさない。
食事の時間になれば俺に食べろと促し、お茶の時間になれば飲めと差し出してくるが、ゼロはそれに参加しないのだ。
仮面の下を見せるのはきっとタブーなのだろう。
信頼はされていないが、部屋に勝手に入り込み寝転がっていても「来ていたのか」の一言で済ませるということは信用はされているらしい。
作戦会議中に、「そろそろこのグループにも名前が必要だが…元はといえば君が立ち上げた組織だから命名権は君にある。なにかつけてはどうか?」と突然問いかけてきた。
それに「黒の騎士団」と答えると「……変えないか?」と聞かれた。
確かにその名前は昔の日本解放軍が使っていた名前だが、弦を担ぐ意味でそれを引き継ぎたいし、元々ゼロが立ち上げた組織なんだからその名前のほうがいいんじゃないかと説き伏せ、なんとか承諾を得た。
黒の騎士団。
この名前に何かこだわりがあるわけではないが、なんとなく自分の中にしっくりくる名前だったのだ。
はぁ…とため息を付くゼロを前に、いつか俺のことも信頼してくれたらいいのにとルルーシュは思った。
それが何を意味しているのかに気づきもせずに。
騎士団全員がすっぽり入るほど広いスペースに、ピンと線が張ったような緊張感が漂っていた。
団員服を身にまとい、一分の隙も無く整列した彼らの前に立つのは団長であるゼロ。
「いよいよ明日は日本国軍にとらわれている国民を解放する作戦の決行日だ。赤紙によって徴兵され、苦しみから逃げ出そうした者。また、国の行いに疑問を抱き反抗し逮捕されたもの…様々な人々があそこで苦しんでいる。それをだまって見過ごすわけにはいかない。我々は全力で彼らを助け出す!」
おおーー!!
そうだそうだ!!
賛同の声が上がる中、ゼロは右手を団員のほうにスイっと差し出した。
「諸君の働きに大いに期待している。今夜は明日に備えてゆっくり休んでくれ。」
差し出した手を右にバッと広げた瞬間、団員は敬礼をし、ゼロは広間から出て行った。
それを見届けながら(相変わらず人を動かすのがうまいやつだな…)と感心しつつ、ルルーシュは自室へ向かう。
団員ではない家族は部屋で待機を言い渡されていた。ナナリーとロロはどこか落ち着きが無く不安気な表情でそわそわとしていたし、父は父で何事か考えているようだった。
「おいおい、暗いぞ皆。」
「兄さん…。」
「だって明日は作戦決行日なのでしょう?団員の皆さんが無事でいられるか心配です…。」
「大丈夫だ…きっと成功すると祈っていないとできるものもできないぞ?」
父親に似て心優しい二人は団員が心配なのだろう。
実際明日はKMFを用いた戦闘になるのだ。
ルルーシュもいささか不安ではあるが、そこまで心配してはいない。むしろ自分とゼロならやりきってみせるという自信すらあった。
もう遅いから、と弟妹を寝かし付けるようにと父に頼み、ルルーシュはゼロの部屋へ向かった。
ゼロの部屋はルルーシュの部屋から少し離れた場所に位置しており、入り口が人目につきにくい場所にあった。
顔を隠しているゼロにとっては好都合の場所だろう。
パスワードを入力し扉を開く。
ゼロとC.C.は突然のルルーシュの訪問に驚いた様子も無く、「きたのか」と歓迎されいてるのかいないのかわからない言葉をくれた。
そんなC.C.の対応にも慣れっこで「ゼロ、紅茶」と注文をつけ、自分は彼のベッドにごろりと転がった。
何の文句も言わずに紅茶を用意してくれた後、ゼロは「機体のチェックに行ってくる。ここにいてもかまわない」と言い残して去っていった。
自分に何も話しかけてこないC.C.と二人きりの空間。穏やかな雰囲気のそれに誘われるように「ふぁ~」と大きな欠伸をしたあと、ルルーシュはゼロの匂いがするベッドに眠りへと誘われた。
どれくらいの時間がたったのか、ゼロが帰ってきた気配を感じた。
おきて自室に帰るのも面倒なのでそのままもう一度眠りに付こうと彼の匂いが染み付いた枕に顔を押し付ける。
彼らしいさわやかな匂いはルルーシュの内緒のお気に入りだった。
男の体臭が好きだなんて変態くさいが、仮面を被り自分を出さないゼロを感じれるのは彼の温もりと香りだけなのだ。
うとうととしているとギシッと音がしてゼロがベッドに座り自分の顔を覗き込んでいるのがわかった。
すっと手が頭に伸びてなでられる。
初めのころは子ども扱いをされているようで嫌だったが、今ではほんわりとした感情を与えてくれるこれが大好きだ。
ごろごろとのどを鳴らし喜ぶ猫気分がわかる…とぼんやりと考えた。
「君は……どうして変わらないんだろう。」
ゼロが自分を見つめながら独り言…いや、眠っていると思い込んでいる俺に何か語りかけている。
はっとしながらも実はおきていることに気づかれてはいけない、とルルーシュは寝たふりを続ける。
「あのころのままの君と同じだ…自分よりも他人の幸せを願い、明日を望む。」
「君はあの人と、僕の主と違う人間のはずなのに……」
「僕は惑わされて仕方が無いよ――『ルルーシュ』」
初めて呼ばれた自分の名前が、己へ呼びかけたものではないと気づき、ルルーシュの意識は真っ暗になっていった。
(お前が呼んでいるのは一体誰なんだ。)
(お前と俺の間には一体何があるんだ!)
『ルルーシュ』と切なげに呼ばれたその人物に、ルルーシュはどろどろとした感情を覚えた。
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