ナイト・オブ・ラウンズの一人であるナイト・オブ・セブン、枢木スザク。
その名を知らぬものはおそらく少ないだろう。
ナンバーズ初のラウンズ入り。白い悪魔と恐れられるほどの戦闘能力。
彼はブリタニアの意思というより、皇帝陛下の意思に従う。捨て身としか思えないような勅命でも、命令される事を、陛下の為に何かを果たせる事に対して嬉しそうに「Yes your majesty.必ずあなたに勝利を…」と敬礼をする。
その様を見た他のラウンズは彼を忠実な騎士としてではなく、「皇帝陛下の狗」と呼ぶ。
彼が何故そんなにも現皇帝シャルル・ジ・ブリタニアに妄信的に尽くすのか。
それを知っているのは皇帝陛下と、第2皇子シュナイゼル・エル・ブリタニア、ナイト・オブ・ワン。そしてナイト・オブ・スリーであるジノ・ヴァインヴェルグだけだった。
皇帝陛下からあるエリアのテロ鎮圧の任務を終えて帰還したスザクは、ラウンズの為に設けられた専用の休憩室で自分の刀を点検していた。
休憩室にはスザクのほかに、同じ任務に行っていたジノとナイト・オブ・シックスのアーニャ・ストレイム、そして書類整理をしていたナイト・オブ・ワンの姿があった。
アーニャはカコカコと携帯をいじくっており、ジノは剣を手入れするスザクを興味深そうに見つめていた。
「ほ~!イレブンの剣はこうやって手入れするんだな。片刃で面白い形している。」
反り返った真剣に興味を引かれたジノが手を出そうとする。スザクはそれを叩き落とす事で制した。
バシっと容赦ないそれにジノの手が赤くなった。
「何するんだよ~スザク~~。」
「人のものに勝手に触れないでくれ。」
うー!っと抗議するように見つめてくるジノをスザクは華麗に無視した。
あまりの冷たさに「面白そうなんだ。いいじゃないか私にも少し触らせてくれても。」と思わず不満が口を付く。それにスザクは思いため息を吐いた。
「ジノは刃の部分を触ろうとしただろう?イレブンの刀はブリタニアの剣と違って触れるだけで切れてしまうほど鋭いんだ。」
「そうなのか?」
それはすごいな…と扱いの大変さを理解したのかしていないのか分からないジノはまじまじと刀に見入る。
慣れた手つきで整備するスザクに「ヒュウ~…」と感心したような口笛を鳴らした。
スザクによると、彼はどうやら幼い頃から真剣を使う事を許可され、それからずっと自分で手入れをしてきた事もあり、当然のことなのだそうだ。
刀を鞘に納め、調整道具だと思われる懐紙と呼ばれる髪や、なにやら分からない綿などを手際よく仕舞い込む。
スザクの動作には無駄が無い。
この間教えてもらったイレブンの「武道」というものは無駄を省くものだと聞いた。ブリタニア人である自分には良く理解できない物だったが、彼のその動作は優美で美しいと思った。
そんなスザクを見やって居た時の事だった。
休憩室の入り口のドアがガチャリと音がしたと思ったらすばやく一人の人物が中に入ってきた。そしてそのままさっとドアを閉じるた。
その人物が誰であるかを把握した瞬間、ジノはスザクに目をやった。
スザクは突然の侵入者に警戒をあらわにした態度を取っていた。そしておそらく何者か尋ねようとしたのだろう。彼が腰を上げようとした瞬間、ビスマルクが「ルルーシュ殿下!」と慌てて近寄った事で再び腰をソファに下ろした。
ルルーシュ殿下と呼ばれた彼は「ビスマルク…いいところに。」と慌てた表情をほっとしたものに変えた。
それを見たスザクはもはや興味は失せたのか、再び道具をしまう動作に戻った。
(………異常はなし、か。)
その後、ルルーシュ殿下と同じように荒々しく入ってきたシュナイゼルにより、ルルーシュ殿下は連れて行かれた。
その時のスザクにすがるような彼の視線が、ジノの心を痛めた。
ジノはラウンズとして皇帝陛下とシュナイゼル殿下より一つの極秘任務を与えられていた。
それは記憶を改ざんした枢木スザクの監視だった。
彼をラウンズに入れることもだが、そもそも生存する事自体シュナイゼル殿下は危険視していたらしい。
『エリア支配地の元首相の嫡男を生かしておくのは危険』という事をずっと訴え続けていたようだ。
それに対して『あやつの身体能力には目を見張るものがある。ラウンズに入れても惜しくないほどだ』と陛下は意見しており、話し合った結果陛下お抱えの洗脳師を使ってスザクを洗脳したのだ。
『皇帝陛下の意思はお前の意思。陛下の望みはお前の望み。陛下の嘆きはお前の嘆き。陛下の怒りはお前の怒り。全身全霊をもって陛下の願いを叶えよ。お前は陛下の為に生まれてきたのだ。』
そうすることでスザクからは枢木スザクとしての意思は消え……いや、自我さえも消され。
ただ、陛下の為に喜び尽くす生きた人形となってしまった。
彼が日本人だったという事を証明するのは、おぼろげな過去の記憶と唯一持つ事を許された日本刀だけだった。
スザクはこちらに人質として送られてきた後、ほんの数ヶ月だったがルルーシュ殿下と時を共にしたらしい。
兄弟のように仲が良かったという彼から忘れ去られ、傷ついたルルーシュ殿下の先ほどの瞳が、ジノの良心を痛めた。
スザクにちらりと視線を向ける。
アーニャと一緒にラウンズで飼っている猫をあやすスザクの表情には翳りなど一切無い。
むしろ猫可愛さにだらしない表情をしていた。
(ルルーシュ殿下もかわいそうだが、自分の意思を捻じ曲げられ自我を消されたあいつも哀れだ)
同僚として仲良くなったスザクをすでに監視対象としてみる事ができないほどに、ジノはスザクに感情移入をしてしまっていた。
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