翌日。
AM10:00 帝都。本日快晴。
新一と快斗は服部に連れられて王子が訪問する予定のホテルに足を運んでいた。
何でも『日本政府が言う最高の警備とやらをみてみんか?』との事で。
穴でも見つけて指摘してやれば、助言としてでも参加させてもらえるのではないかとワクワクしている彼に、申し訳ないがそう簡単に事は進まないだろうな、と苦笑で返した二人だった。
ホテルで三人を迎えてくれたのは、かつて大阪を旅行した際にお世話になった大滝さんだ。どうやら服部の親父さんに連れられてこちらまで来ていた。
「いや~大滝はん、我侭言うてしもてすまんな!」
「ほんまやで平ちゃん。これがばれたら俺退職せなあかんわ…。」
「別に警備内に入るわけでもあらへんし、大丈夫やろ?」
「普段だったらそうなんやけど…今回は相手がちゃうわ。」
「ぱっと見る限りそう厳重な警備をしているようには見えないんですが…。」
「工藤君、久しぶりやなぁ。いや、警備隊は皇子に付けるねんけど、ホテル内には一般客もちらほらおるし…覆面って形で結構厳重に警備するんや。」
「なるほど…」
そういわれて注意して見渡すと、耳にイヤホンを付け厳しい表情をしている者がちらほら目に入る。
「覆面警備って訳ですね?」
「ん…?君は工藤君の兄弟かなにかか?」
「ぶっ!!ちゃうで~大滝はん!こいつらな、正真正銘の他人や!」
「他人じゃなくて恋人なんだけど…」とぼそりとつぶやく快斗を肘で黙らせ、「友達の黒羽っていうんです。ほら、挨拶しろよ」とうまく取り繕う。
「はじめまして大滝さん!これどうぞ!」
「え?わっ!」
ぽんっとどこからともなく缶コーヒーを差し出す。それに目を丸くして驚く大滝の手をぎゅっととり、勝手に握手してしまう。
「マジシャン志望なんです。」
「ほぉ~たいしたもんやな!」
どうやら快斗を気に入った様子の大滝に新一はふうっとため息を吐いた。
さすがにこれ以上見せるわけにはいかないという大滝に『いえ、とても勉強になりました』と礼をいい、ホテルの一階にある喫茶店で一服する事にした。
「はぁ~さすがに今回の警備は手が込んでそうやな。」
「そりゃそうだよ。なんと言ってもブリタニアの皇子様がくるんだぜ?」
「ああ。しかも警備隊はブリタニア軍から精鋭が来るっていうし…。」
「一度お手合わせ願いたいもんや…」
「ブリタニアっていったら世界最強だろ…命知らずめ。」
「かかかっ!それでこそ服部だろ?ところでこれからどうする?帰るか~?」
快斗の提案に服部と新一はふむ…と悩む。
確かにこれ以上ここに居ても時間の無駄だ。
本日到着予定の皇子の姿を一目くらい見る事は可能かもしれないが、どうやら到着した足で皇居に向かい、天皇陛下と謁見するようだ。
見る事はほぼ不可能だろう…。
「そうだな。もしかしたら事件の呼び出しがかかるかもしんねーし…」
「せやな。」
そういって席を立った瞬間、先ほど別かれたはずの大滝さんが猛スピードでこちらに駆け寄ってくる姿が目に入った。
新一はかつてないくらい緊張していた。
そんな自分を取り囲むようにして並ぶ兵士たち。針金でも入っているのではないかと思うくらいびしっとした姿勢を保ち、微動だにせず主の訪れを待っている。
(なんでこんな状況に陥ったんだ…?)
(そう、大滝さんが喫茶店に駆け込んできて……)
慌てて自分たちに駆け寄る大滝さんに『何か事件でも?』と声をかけると、顔を汗でぬらした大滝さんにガシッと肩を掴まれてゆすられた。
『工藤君、君なんかしたんか?!』
『え?なにかって…?』
『ちょ、大滝はん、なにしよん!乱暴やで??』
快斗が大滝の手を新一の肩から離す。
何が起こったのかと動揺していた新一も、一度深呼吸をして改めて大滝さんに向かい合う。
『僕になにか関係する事でも起こったんですか…?』
ゆっくり落ち着いた声で言う新一に彼も落ち着いたのか、顔から焦りが消えた。
そしてまっすぐ新一の目を見て告げた言葉に、三人は目を丸くした。
『ブリタニアの皇子が、君に会いたいっていってるんや。』
その後、拉致されるようにしてホテルの最上階の一室につれられた。
新一だけを連れて行こうとした警備の人たちに自分たちも連れて行け!とごり押しした快斗と服部は、許可が下りずそのまま置き去りにされてしまった。
あれから2時間。そろそろ皇子の飛行機が到着し、このホテルに着いてもおかしくない…と考えていたそのときだった。
警備隊がいっせいに扉の方へ体を向け、敬礼を取った。
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